兵助は自分の子供のような靴をケアしてほしいのですね…。
子供の身を案じる「親」の立場なら、これらの品物は「薬」や「肌着」のようなものかも知れません(笑)
さあ、旅人はどう思ったのでしょうか?
旅人(たびびと)は、めずらしいことをいうこぞうだ、とかんしんしていきました。
「めずらしいことをいうこぞうだ」は旅人のセリフです。実際に発声したわけではないのでカギカッコでくくられていません。いわゆるモノローグ(心の声)です。しかし「かんしん」しているので、その内的動詞は音声表現したほうがいいでしょう。良い意味で「軽く驚く」という動詞で良いと思います。
そして「旅人」は「行ってしまいます」が、その時の兵助の視線はどこにあるでしょう。おそらく旅人の足元、つまり「靴」を見ているのでしょう。やはり「子を見送る親」の心情を心にとどめておくべきだと思います。
しばらくすると兵助は、つかつかと旅人のあとを追っかけていきました。
ここは意外な展開です。朗読者は聴き手の立場に立って、やはりこの物語の聴き手が「(少し)驚く」という内的動詞を表現したほうがいいでしょう。
「もしもし、その靴(くつ)のうらの釘(くぎ)がぬけたら、この釘(くぎ)をそこにうってください。」
といって、釘(くぎ)をポケットから出してやりました。
現在、靴の底は糸で本体と縫い合わされていることが多いのですが、当時は短い釘で靴本体と貼り合わせているケースが多かったのです。
最初は「靴ずみ」「ブラシ」でケアに対する配慮を見せた兵助ですが、底が抜けてしまうとこの靴は廃棄されてしまうかも知れません。
兵助にとってそれは最悪な事態なので、それを避けようとしたのでしょう。しかし、先述しましたが、当時の靴は「履きつぶす」ものだったはずです。(あ、今もそうか…)
そう考えると、兵助は自分の靴が履きつぶされることも否定したかったのかも知れませんね。
ところで「ポケットから」「出してやりました」ではなく「ポケットから(釘を)だして」+「(旅人に)やりました」という意味でしょう。「だして、やりました」というイントネーションになります。
ここでの兵助は「案じる」という行動が大きいでしょう。
兵助は「自分のつくった靴」が可愛くて、いとおしくてしょうがないのでしょうね?
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