つまり「素材(原稿)」の違い、プラス「映像(画像)の有無」で「朗読とナレーションの違い」がある程度、理解されるのではないでしょうか?
仮に「朗読」が「映像や画像なしで、音声のみで情景や心象を表現する」と考えるならば、提供すべき情報量は「音声」しかないわけですから、あまり速い読みだと聴き手に「情報(情景、状況、人物、心理、行動、地名、人名など)」が理解されない可能性があります。つまり、頼るべき情報が「音」と「声」しかない、ということです。
そういうことを踏まえると、やはり読みのスピードは原則的に速くないほうがいいでしょう。特に、読み始めはかなりゆっくりのほうがいいと思います。なぜなら、聴き手は「これから何を語られるのかわかっていない」というのが原則だからです。
ただし、「ゆっくり読む」というのは、ただ単に「物理的にゆっくり」なのではなく、聴き手が場面を思い描く時間を考慮して読むということです。
単純に時間という物理的側面で言うと、だいたいニュースなどの原稿の読みは400字詰め原稿を60秒〜70秒程度で読むというのがスタンダードな速さなのですが、朗読の場合は「聴き手が場面を思い描く時間」を含めて1.5倍くらい、つまり原稿用紙1枚を90〜105秒くらいの速さで読むことになります。
芥川龍之介の「羅生門」の冒頭を参考にしてみましょう。句読点を含んで210文字くらいの文章です。原稿用紙半分強です。「冒頭」ですから聴き手には何の情報もないことを考慮しないといけません。
ある日の暮方(くれがた)の事である。一人の下人(げにん)が、羅生門(らしょうもん)の下で雨(あま)やみを待っていた。
広い門の下には、この男のほかに誰もいない。ただ、所々丹塗(にぬり)の剥(は)げた、大きな円柱(まるばしら)に、蟋蟀(きりぎりす)が一匹とまっている。羅生門が、朱雀大路(すざくおおじ)にある以上は、この男のほかにも、雨やみをする市女笠(いちめがさ)や揉烏帽子(もみえぼし)が、もう二三人はありそうなものである。それが、この男のほかには誰もいない。
何故かと云うと、この二三年、京都には、地震とか辻風(つじかぜ)とか火事とか饑饉とか云う災(わざわい)がつづいて起った。
以上の文章を35〜40秒くらいで読むと「ニュース」の速さになります。
だから「朗読」的な速さというのは53秒から60秒くらいということですね。
いちど、ストップウォッチを手にトライしてみてください。
ただ、朗読でも物語の展開が進んで「すでに聴き手に理解されている情報である」と判断される頃には、少し速い読みになってもいいと思います。読みのピッチはそのような「聴き手の理解度」や「描写される場面」(スピード感が必要なシーン)によっても変わってきます。
むずかしい説明になってしまいました。
この「朗読」についての解説は続けることにします。
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